組織シーリングシステムの導入

写真 病気の治療の上で外科的に対応しなければならないことも多く、手術が行われます。

当院では手術支援機器として組織シーリングシステムを導入しています。
組織シーリングシステムは手術時の止血、組織の切離を行う機器です。
この機器により縫合糸を使用せず組織のシール、切離を行うことができます。よって麻酔、手術時間の短縮することもできます。

当院はその中からエンシールシステムを採用しました。
採用理由は他のシーリングシステムよりも高いシール能力が示されていましたので安心して使用が可能なためです。(文献:Tech.Mag.Vet.Surg.Vol.12.No.2.P.77)

当院の使用例として
手術には腹腔内の深い部分で結紮、止血など対応しなければならない肝臓腫瘍の肝葉切除術に確実に切除できました。

また、救急で来院した脾臓の腫瘍から出血が持続している症例では迅速な脾臓の摘出が必要です。
しかし、脾臓の血管は中心側で結紮を行うと胃などの血流も遮断してしまうため末端の血管で結紮が必要です。末端の血管は多数に分岐しているため1本ずつ結紮していかなければなりませんがこのエンシールシステムを使用すると従来の10分の1の時間で終了することができ出血量を抑え、手術時間、麻酔時間を短縮できました。

モルモットやウサギ、ハリネズミには子宮卵巣疾患が多く発生します。エキゾチック動物は麻酔時間の短縮が重要です。
小さな体での手術に組織の把持、結紮にも苦慮することが多くエンシールシステムが活躍します。

アカアシリクガメの卵材停滞による子宮卵巣摘出術では開甲(お腹の甲羅を開ける)中で行いますので、甲羅の中で縫合糸による結紮が難しくエンシールにより素早く行えました。

さらに、手術の際に使用する縫合糸に肉芽腫という炎症の塊ができることがあります。
それは時に臓器に癒着し機能を失うことにつながることもあります。
この肉芽腫は現在ほとんど使用されない絹糸の使用で発生が認められたため、絹糸の強い異種蛋白としての抗原認識が原因と考えられていました。
しかし、現在一般的に人や動物の医療現場で使用されている合成吸収性縫合糸でもごく稀にこの肉芽腫が発生しています。
発生はごく稀ですがミニチュアダックスフント、トイプードルを含む多くの犬種で報告されています。
私の担当した患者様で発生したことは確認されていませんが、複数の犬種やウサギ、酪農学園大学腫瘍科の研究生時に診せていただいた事があります。

また、多数の一般動物病院、東京大学や鳥取大学(下記)等の報告がなされています。
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縫合糸反応性肉芽腫の発生を減らすには縫合糸を使用を避けて止血、組織の切離を行うことができる組織シーリングシステムを使用することが1つの方法です。

それにより腹腔内の重要な器官である腎臓や尿管、大動脈や神経など縫合糸反応性肉芽腫による臓器損傷を防ぐことができます。

腹壁の縫合はどの組織シーリングシステムでも行えませんので合成吸収性縫合糸にて縫合します。
腹壁にその肉芽腫ができる可能性はありますが重要な臓器への癒着は解剖学的な位置関係から少ないです。

写真 以下はメーカーによる人の医師への説明文です。
バイポーラ電気の技術を応用したエンシール®ティシューシーリングシステムは、独自の電極配置により、ジョー側方への熱拡散をコントロールします。
上部ジョーに埋め込まれた導電性のポリマー材により、ジョー内部の温度が約100℃以下になるように部分的に通電を制御しながら、7mmまでの血管等の組織をシールします。

 独自のプラス・マイナス電極構造
独自にデザインされたプラス・マイナスの電極配置間を流れる電流は、ジョー内側方向に制限されます。
電流は、ジョーの側方に大きく膨らまないので、側方組織への熱の拡散をコントロールします。
内蔵のI-Bladeはジョーに取り込んだ組織に均一で高いコンプレッションを与え、また出力しながら組織にI-Bladeを走らせるとマイナス電極としても作用するため、より確実なシーリングを可能にします。
 ワンモーションでスピーディな操作 出力をしながら、ハンドルを握り込むことで組織の把持・凝固・切離が同時に行えるため、操作が簡便でスピーディな手術を可能にします。
写真 デバイスには小児用がありますので超小型犬や猫、うさぎ、モルモット、フェレット、カメ、ハリネズミ、チンチラなどの小動物にも使用実績があります。